ファンドレイジングの教科書には、「ドナーレンジチャートを作りましょう」と書いてあります。
作ろうとして、決済サービスのデータを3つダウンロードし、Excelに並べて――そこで手が止まった方は少なくないはずです。
止まったのは、分析の力が足りないからではありません。ドナーレンジチャートにかかる時間のほとんどは、表を作る前の「下準備」にかかります。そして教科書は、その下準備が終わっている前提で書かれています。
この記事では、決済サービスを2つ以上使っていて、寄付者が1,000人を超えている団体に向けて、ドナーレンジチャートの作り方を7つの工程に分けて解説します。あわせて、支援者の個人情報を外に出さずに集計する方法もご紹介します。
この記事でわかること
- ドナーレンジチャートとは何か、なぜ実務で作れないのか
- 6つの下準備(一元化・自動化・台帳の分離・ID・正規化・名寄せ)と、1つの作成
- AIを使うときに、寄付者の個人情報をどう守るか
- GASを使う方法と、キントーンの中だけで集計する方法の違い
ドナーレンジチャートとは|1年間の寄付額で寄付者を帯に分けた表
ドナーレンジチャートは、1年間の寄付額で寄付者を金額の帯に分け、帯ごとに「何人いて、合計いくらで、全体の何割か」を並べた表です。20万円以上、5万円以上、1万円以上……というように帯を切ります。

表としてはこれだけです。ところが、この表を実際のデータから出そうとすると、多くの団体が途中で止まります。
ドナーレンジチャートが実務で作れない理由|時間の9割は「下準備」
実務でドナーレンジチャートを出すには、工程が7つあります。
- すべての決済を、1か所に集める
- 集めるのを、できるところから自動にする
- 「決済の台帳」と「人の台帳」を分ける
- その2つを、IDで繋ぐ
- 住所や名前の形を揃える(正規化)
- 同じ人を、1人にまとめる(名寄せ)
- レンジチャートを出す

①から⑥はすべて下準備で、表を作るのは⑦だけです。そして教科書が書いているのは⑦だけです。

ExcelにCSVを並べて止まったのは、表が作れなかったからではありません。下準備の真ん中に、いきなり放り込まれていたからです。教科書に書かれていない以上、そこに時間がかかると知らないのは当然のことです。
逆に言えば、下準備さえできていれば、レンジチャートそのものは簡単に作れます。
下準備が終わっていれば、作成にかかる時間はゼロ
先に完成形をご紹介します。以下はデモ用のダミーデータで作った例です。
- キントーンの「決済データ」アプリに、コングラント・ロボットペイメント・レディフォーの決済が同じ一覧で並んでいる
- そこから、GASが決められた日にレンジチャートを自動で書き出す
- 結果:2025年度の寄付者は622人・合計1,471万円。上位1.9%の寄付者が、寄付総額の37.7%を占めていることが一目でわかる
このシートは、人が作ったものではありません。仕組みが毎年同じ手順で出しています。これができるのは、下準備が全部終わっているからです。ここからは、その下準備の中身を1つずつ見ていきます。
ドナーレンジチャートの作り方|6つの下準備と1つの作成
工程① すべての決済を1か所に集める
「コングラントのデータだけで作ればいいのでは」と思われるかもしれません。それだと帯がずれます。
たとえば、コングラントで毎月3,000円を寄付している方が、クラウドファンディングでも2万円を支援してくれていたとします。別々に数えると「年36,000円の人」と「20,000円の人」で、どちらも1万円以上の帯です。ところが同じ人として合わせると56,000円。1つ上の、5万円以上の帯の人です。

レンジチャートは「この人はどの帯か」を決める表なので、1か所でも抜けていると、その人の帯が変わってしまいます。集める先として、私たちはキントーンを使っています。どの決済サービスも、それぞれの中では正しく記録しています。足りないのは、それを1つに並べる場所です。
工程② 入れ方をチャネルごとに決め、できるところから自動にする

コングラントのデータは、決済があるたびにキントーンへ自動で転送できます。CSVをダウンロードして、整えて、取り込むという作業は要りません。寄付の件数が最も多いチャネルを自動にするのが、いちばん効果があります。
自動にしないチャネルは、入れ方と入れる日を決めておきます。ロボットペイメントは月に1回、決まった手順でCSVを取り込みます。クラウドファンディングは期間が決まっているので、終了後に1回だけ取り込めば足ります。
大事なのは、「誰かが気づいたときに入れる」状態をなくすことです。担当者が休んだ月だけデータが抜ける、という事態を防げます。
工程③ 「決済データ」と「人データ」を分ける
ここは、教科書にも決済サービスの説明書にも書かれていないところです。台帳を2つに分けます。
- 決済データ:1回の決済が1行。いつ・いくら・どのサービスで。毎月寄付してくださる方は、1年で12行になります
- 人データ:1人が1行。お名前・ご住所・連絡先

分ける理由は、レンジチャートの帯が、決済ではなく人に付くからです。決済の一覧のままだと、12行の方が12人に見えてしまいます。「この人は1年でいくら」と言える台帳が、別に必要なのです。
お名前やご住所は、決済のたびにコピーせず、人データの側に1つだけ持っておきます。住所が変わっても1か所直せば済みますし、後で説明するセキュリティの面でも、この形が効いてきます。
工程④ 決済データと人データをIDで繋ぐ
決済データの1行1行に、「この決済は人ID何番の人のもの」という番号を入れます。

名前で繋いではいけません。「田中太郎」「タナカタロウ」「田中 太郎」は、名前で繋ぐと別の人になってしまいます。人IDで繋いでおけば、人データを1件開くだけで、その方の決済がサービスをまたいで全部並びます。レンジチャートの材料は、実はこの状態です。
工程⑤ 住所や名前の形を揃える(正規化)
決済サービスは、それぞれ自分の都合で項目を作っています。最もよく揉めるのが住所です。

コングラントからは「郵便番号/都道府県/市区郡/番地」の4項目に分かれて届きます。一方レディフォーでは「郵便番号/都道府県/市区町村番地」の3項目で、市区町村と番地がひとまとめになっています。
違いは1か所だけですが、このまま人データに入れると、同じ方のご住所が片方は2つの欄に、片方は1つの欄に入ります。これでは見比べることも、同じ人かどうか判定することもできません。そこで、キントーンに入る時点で同じ形に揃えます。

住所だけではありません。全角と半角、名前の間のスペース、電話番号のハイフン、「株式会社」と「(株)」。どれも人が見れば同じだとわかりますが、システムから見ると全部別物です。形が揃っていないものは、同じ人かどうか比べられません。この工程が、次の名寄せの前提になります。
工程⑥ 同じ人を1人にまとめる(名寄せ)
形が揃っていれば、「郵便番号と番地と名前の読みが一致したら同じ人」というように、判定のルールを決められます。同じ人だとわかったら、人データを1件にまとめ、決済データの人IDも付け替えます。
名寄せをすると、上の帯の人が増えます。別々に数えられていた少額の寄付が合算され、帯を1つ上がるからです。見えていなかった大口の寄付者が、名寄せによって初めて見えるようになります。
工程⑦ レンジチャートを出す(GASでも、キントーンの中でも)
ここまでが下準備です。実際に時間がかかるのは、ここまでです。教科書に書いてあった⑦は、下準備が終わっていればいちばん簡単な工程になります。
私たちのデモでは、GAS(Googleの仕組み)が決められた日にキントーンの決済データを読みに行き、決済日から年度を計算し、人ごとに1年分を合計して帯に分け、スプレッドシートに書き出しています。
- キントーンのアプリには何も書き足していません。年度の欄も帯の欄も足さず、読むだけです
- 年度の区切りは、4月始まりでも10月始まりでも、団体の決算に合わせられます
- 出力される明細は、人ID・金額・日付だけ。お名前もご住所も出てきません
また、GASを使わずに作ることもできます。人データの側にその年の寄付額と帯を持たせておけば、キントーンの集計機能だけで、帯ごとの人数と金額が出ます。

理事会資料にしたい、毎年の変化を並べて見たいならGAS。画面でさっと確かめたいならキントーンの中で。どちらを選んでも、下準備が済んでいれば簡単という点は変わりません。
AIでドナーレンジチャートを作るときの個人情報の扱い
「このくらいの集計ならAIに頼めばいいのでは」と思われたかもしれません。そのとおりで、AIでも作れます。ただし1つ、気をつけていただきたいことがあります。

決済サービスのCSVをそのままAIに渡すと、そこには寄付者のお名前・ご住所・メールアドレス・電話番号・寄付額が入っています。つまり、支援者の個人情報をまるごとAIのサービスに送ることになります。
「学習に使わない設定にしているから大丈夫」と考えるかもしれません。しかし、学習に使われないことと、送っていないことは別の話です。送った時点で、データは団体の外に出ています。

そこで効いてくるのが、工程③と④です。個人情報は人データにだけ置いてあり、キントーンがクラウド上の金庫の役割を果たします。一方、レンジチャートを作るのに必要なのは人ID・金額・日付の3つだけで、お名前もご住所も要りません。
だから、個人情報は金庫に入れたまま、IDをキーにして集計します。AIに渡すとしても、渡すのは「ID 1052番、56,000円」という数字だけです。それが誰なのかは、金庫を開けられる人にしかわかりません。これが、セキュリティを担保しながらドナーレンジチャートを作る、いちばん確実な方法だと私たちは考えています。
手作業だと年40時間前後。そのほとんどが下準備
ここまでの7工程を手作業で行った場合の時間を、私たちの概算でまとめると次のとおりです。

- 毎月、複数のサービスからダウンロードして、形を整えて貼り付ける:1回1時間半として年18時間
- 年1回、住所や名前の形を揃え、同じ人を探してまとめる:寄付者1,000人規模で15〜20時間
- 帯に分けて表にする(作成):数時間
合わせて年40時間前後。そのほとんどが下準備で、しかもやり方を知っている1人にしかできない40時間です。
下準備を仕組みにすると、この作業はほぼなくなります。残るのは、自動にしていないチャネルの月1回の取り込みと、名寄せで「同じ人かもしれない」と出てきた候補を人が確かめるところだけです。
まとめ|難しいのは表ではなく下準備

- ドナーレンジチャートにかかる時間のほとんどは、下準備(一元化・自動化・台帳の分離・ID・正規化・名寄せ)
- 下準備は順番を飛ばせない。集まっていなければ分けられず、IDが無ければ繋がらず、揃っていなければまとめられない
- 逆に、下準備を①から順に済ませておけば、レンジチャートは必ず、簡単に出る
- 個人情報はキントーンという金庫に置いたまま、人ID・金額・日付だけで集計するのが、安全に作る最適な方法
レンジチャートは、1回作って終わりの表ではありません。去年と今年で帯の形がどう変わったかを見るための表です。来年これを出すのは、今の担当の方ではないかもしれません。決めておくべきなのは表の作り方ではなく、「誰が担当になっても、同じ表が出てくる形になっているか」です。
よくある質問
Q. ドナーレンジチャートとドナーピラミッドの違いは何ですか?
ドナーレンジチャートは、1年間の寄付額という金額の軸だけで寄付者を帯に分けた表です。ドナーピラミッドは、寄付に加えてボランティアやイベント参加などの接点も含めた団体との関係の近さを表す図です。まずは決済データだけで作れるレンジチャートから始めるのが現実的です。
Q. Excelでもドナーレンジチャートは作れますか?
作成そのものは可能です。ただし、毎年CSVを集め、形を揃え、同じ人を探す下準備をすべて手作業で繰り返すことになります。この記事でご紹介した7工程のうち①〜⑥を仕組みにしておくと、毎年同じ手順で自動的に出せるようになります。
Q. GASが使えなくてもドナーレンジチャートは作れますか?
作れます。人データの側にその年の寄付額と帯を持たせておけば、キントーンの集計機能だけで帯ごとの人数と金額を出せます。理事会資料や毎年の比較にはGAS、画面での確認にはキントーンの中の集計、と使い分けられます。
Q. 寄付者のデータをAIに渡しても大丈夫ですか?
お名前やご住所を含むCSVをそのまま渡すのはおすすめしません。学習に使われない設定でも、送った時点でデータは団体の外に出ます。個人情報はキントーンに置いたまま、人ID・金額・日付だけを使って集計すれば、個人を特定できる情報を外に出さずにレンジチャートを作れます。
Q. 名寄せをすると何が変わりますか?
同じ人が別々に数えられていた状態が解消され、少額の寄付が合算されることで上の帯の人が増えます。これまで見えていなかった大口の寄付者が見えるようになるため、声をかけるべき相手が明確になります。
決済サービスを2つ以上お使いの団体へ
御団体のデータで、
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無料でお渡しするもの
- 御団体の決済データから作ったドナーレンジチャート1枚
- 6つの下準備のうち、どこが済んでいて、どこが残っているかの診断
- 御団体の決済サービスの組み合わせに合わせた、自動化の進め方
こんな団体におすすめです
- コングラント・ロボットペイメント・クラウドファンディングなど、決済サービスを2つ以上使っている
- 寄付者が1,000人を超え、同じ人が何度も登録されている気がする
- 教科書を読んでレンジチャートを作ろうとしたが、途中で止まった
- 寄付者の個人情報を外に出さずに分析したい
お申込みの流れ
① フォームから申込み(入力1分) → ② オンラインで30分お話を伺う → ③ レンジチャートと診断結果をお渡し
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奏ワークス 北村|NPOの支援を16年、国公立大学を含む30団体以上でキントーンを構築。
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